踊る大捜査線の本映画は約7年ぶりだという。
予告を見る限り、前回までの引きなおしに、オールキャスト出演というマンネリな感じだ。
警察署乗っ取りというのも、以前稲垣五郎さんがゲストの話で使用済みである。
まさか第3弾で天丼はないだろうと思いつつ、とにもかくにも、あまり期待しないで観に行った。
最近の織田裕二さんといえば、しばらく演技活動外でしか目にすることがなかったのだが、昨年の『アマルフィ』で、トレンディ俳優(死語?)から脱却した骨太さを見せてもらったばかりだ。
あのがむしゃらだった若手刑事の青島が、7年経って、どう成長し、どう変わらずに存在するのか。
果たして、スクリーンに映し出された青島の横顔は、いささか老けてはいたが、変わらないあの茶目っ気を十分に発揮していた。
自分の見方が変わったのかもしれないが、それでいて、人物に大人としての厚み(演技力?)が出ているように感じる。
実を言うと私は、踊るシリーズの設定は大好きなのだが、主題が嫌いである。
テレビシリーズから続く本店VS支店、キャリアVSノンキャリという構造が、共感を集めるものだと解っていながらも、僭越すぎて、どうしても好きになれなかった。
ただ、この作品が与えた影響は素晴らしく、青島俊作という‘貴種でない正義の味方’が登場し、サラリーマンの星となった。しかも、織田裕二さん演じる青島にはものすごくチャームがある。
しかし、MOVIE2ではそのカリスマ振りが災いして、あまりにも形而上な話になりすぎていた。現在の刑事もの流行とは真逆の時代において、構造に重きを置いたのは正解だとは思うが、あまりにもストーリーが疎かになった。青島という、一人のサラリーマンの熱意に動かされて、「自分の判断で」というイデア(というより組織崩壊テロ?)が主軸となっていたのだ。
(最近見返したわけでもないので、ただただ‘印象’という意味合いでだが・・・・・)
今回もそのノリだったらどうしよう、と、ひそかに危ぶんでいたのだが、蓋を開けてみて、安心した。
その後、『容疑者室井慎次』を経て、『誰も守ってくれない』を描いた君塚さんである。エンタメにはエンタメ流の筋の通し方をちゃんと心得ていた。
(構成上仕方ないが、「ジャンプか!」という僭越なネタも堂々と使われていましたが・・・)
2と違って青島は、特別なカリスマを持っていない。確かに湾岸署ではリーダーシップを執る一人のようではあるが、 その存在は特別ではないのだ。そこが素晴らしい。それでこそサラリーマンの星なのだ。(神格化が和久さんに移行しているという話もあるが・・・)
予告で謳っている青島の死亡フラグであるが、本編画像をちゃんと使って、うまい具合の危機を演出している。大人にありがちなハプニングではあるが、まさかそう来ると思っていなかったので、凄く面白かった。それに付随して起こる青島とすみれのカップめんシーンも、目じりが下がってしまうくらい微笑ましい(まったく恋愛にならないのがまたいい)。こんな間柄の同僚、仲間たちとお仕事ができたら、毎日絶対楽しいだろうなと凄く羨ましくなってしまう。
構造のシフト、加えて時間経過による出世という設定によって、残念ながら、室井はいささか蚊帳の外に置かれてしまった。そこで、キャリア組として新たに加わるのが、小栗旬さん演じる鳥飼だ。
私の中で、彼は、若手演技派俳優のど真ん中に位置する人であるゆえ、あの元気な青島やその世界観とどう絡んでゆくのかとても気になった。折角彼が出るのだから、できれば名演を発揮して欲しいが、展開上、キャラクターがそこまで掘り下げられるか怪しいものだ。
だが、期待は再びいい意味で裏切られた。今回はVS路線ではないゆえ、鳥飼は決して敵ではなく、といって味方でもないという、ともすれば生殺しの難しいポジションだった。それを小栗さんはうまく演じきってくれている。彼の言葉少ななシーン、無言の演技は、鳥飼という人物のポジションを、巧みに浮き彫りにさせてくれている。
事件に関して言えば、犯人像は前回2のものをもっと深く細かく設定したという感じ(2はいい加減すぎたと個人的には思う)。ただ、その背後に、本シリーズ唯一異彩を放っていた・・・というか、浮きまくっていて勿体なかった人物を投入。ここでまた青島とはミスマッチかと思ったが、成熟した青島のなせる業か、脚本と演出の妙か、うまく調整されていた。
上記のように、室井ファンにとってはとても納得のできるストーリーではないだろうが、私はこれくらいの温度が好きだ。初期「踊る」の世界では、‘改革したいなら偉くなれ’というのがキャッチだったが、そこからちょっと大人になって、揺るがしがたい寄木細工のような構造が描かれるに至った。ここまで来ると、もう青島世界のカテゴリー外だ。これ以上突っ込んで描いてしまうと2の二の舞になる。
劇中で、青島が「やっぱりうちの係員は優秀だね」と呟く。大きな組織を語る「踊る」だが、そうやって最小単位についてのありふれた台詞を使う、これこそが観客に共感を持たせる巧みな手法であると思う。
おなじみのメンバーが総出演していて癒された(何故筧さんを出さないのか・・・ ←ファンなので)。私はこのシリーズの、人がいっぱい居てにぎやかにしているシーンが本当に好きだ。
演技力に関してあまり信頼していない(ごめんなさい;)ユースケさんだが、今回は、持ち前のつかみ所のなさが生かされていて、全般的に良かった。開署式のシーンなどは、とても自然で面白い。
(ただ、‘目には目を’のシーン、見せ場だったのに、その後うやむやに・・・)
内田有紀さん、伊藤淳史さんなど、フレッシュながらも‘ライトスタッフ’としてのポジションを確立していて良かったし、昔からの佐戸井けん太さん、河本雅裕さん、遠山俊也さんなども活躍している。
特に、ゆるキャラっぷりを遺憾なく発揮するスリーアミーゴスも健在。北村総一郎さんを見て、早く『アウトレイジ』が観たくなった。(昔はこわもて刑事とか、やくざとか死体とかの役ばかりだったのに・・・・)
あと、個人的にワニ?の出てきたシーンが、アニメ『機動警察パトレイバー』のTVシリーズを髣髴とさせて面白かった。
私は特別に織田さんが好きというわけではないし、どちらかというと演技に特徴があって、たとえば、香川照之さんのように、どんな役もこなします!という演技派俳優さんとは一線を画していると思う。
(どちらかというと、私は香川さんのような役者さんが好みだ。)
だが、『踊る』しかり『椿三十郎』しかり『アマルフィ』しかり、やはり私にとって、織田裕二さんは特別な存在である。
チャームというか、華というか。
彼がスクリーンに映し出されると、醸し出される存在感に、ついつい目が釘付けになるのである。